01デジタル証券(ST)とは何か
ブロックチェーンなどの技術を使って権利を電子的に記録した有価証券です。正式には電子記録移転有価証券表示権利等といい、2020年の金商法改正で定義されました。セキュリティ・トークン(ST)とも呼ばれます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | 金融商品取引法 |
| 法的な性質 | 第一項有価証券として扱われる(一定の要件を満たす場合) |
| 扱う業者 | 第一種金融商品取引業者 |
| 対象になる権利 | 信託受益権、社債、匿名組合出資持分など |
| 記録の方法 | ブロックチェーン等の電子的な仕組み |
| 流通 | 私設取引システム(PTS)での売買が想定されている |
| 投資家 | 一般の個人も購入できる(商品による) |
2行目が重要です。通常、匿名組合出資持分は第二項有価証券(みなし有価証券)で、開示の義務が軽い枠にあります。ところが電子記録移転権利は第一項有価証券として扱われ、株式や社債と同じ開示の義務がかかります。
02不動産クラウドファンディングとの違い
同じ「不動産に少額から投資する」商品でも、制度の枠がまったく違います。
| 不動産クラウドファンディング | 不動産のデジタル証券(ST) | |
|---|---|---|
| 根拠法 | 不動産特定共同事業法 | 金融商品取引法 |
| 扱う業者 | 不特事業者(第1号) | 第一種金融商品取引業者(証券会社) |
| 投資家が持つもの | 匿名組合出資持分または共有持分 | 信託受益権など(第一項有価証券) |
| 開示の義務 | 契約成立前書面 | 有価証券届出書・目論見書 |
| 最低投資額 | 1万円から | 10万円〜100万円が多い |
| 途中で売れるか | 原則できない | PTSでの売買が想定されている |
| 所得区分 | 雑所得(匿名組合型) | 商品の設計による(配当所得・譲渡所得など) |
| 損益通算 | できない(匿名組合型) | できる場合がある |
| 監督 | 国土交通省・都道府県 | 金融庁 |
| 取扱いの実績 | 多い | まだ少ない |
6行目と8行目が、デジタル証券の大きな利点です。流通の仕組みがあり、税の扱いも有利になりうる。
一方、4行目の開示の義務は事業者にとって重い負担です。有価証券届出書を作るには費用がかかるので、案件の規模が大きくないと採算が合いません。これが取扱いがまだ少ない理由です。
03流通市場は、実際に機能しているのか
デジタル証券の最大の売りは途中で売れることです。ただし、現状では制約があります。
| 確かめること | 現状 |
|---|---|
| 売買する場所 | 私設取引システム(PTS)。大阪デジタルエクスチェンジなどが運営 |
| 取り扱われている銘柄 | 限られる。すべてのSTが売買できるわけではない |
| 取引の量 | 少ない。買い手が見つからないことがある |
| 価格 | 需給で決まる。発行価格を下回ることもある |
| 手数料 | 証券会社による |
| いつでも売れるか | 市場に買い手がいれば |
「売れる仕組みがある」ことと「いつでも売れる」ことは違います。取引の量が少なければ、売りたい価格で売れません。
それでも、原則として一切売れない不動産クラウドファンディングと比べれば選択肢があることは確かです。流動性を重視するなら、検討する価値のある商品です。
04どちらを選ぶかの判断
目的別に整理します。
| 重視すること | 向いている商品 | 理由 |
|---|---|---|
| 少額から始めたい | 不動産クラウドファンディング | 1万円から。STは10万円以上が多い |
| 案件の数を確保したい | 不動産クラウドファンディング | 募集の件数が多い |
| 途中で売れる可能性がほしい | デジタル証券 | PTSでの売買が想定されている |
| 税の扱いを有利にしたい | デジタル証券 | 商品の設計により、申告分離や損益通算の余地がある |
| 開示の量を重視する | デジタル証券 | 有価証券届出書・目論見書が作られる |
| 分散させたい | 不動産クラウドファンディング | 少額なので社数・件数を増やせる |
| 大きな物件に投資したい | デジタル証券 | 規模の大きな案件が中心 |
現状では、両者は競合というより棲み分けの関係にあります。少額・多件数の不動産クラウドファンディングと、大型・開示重視のデジタル証券。目的が違えば選ぶものも違います。
05制度の今後を、どう見るか
制度が動いている分野なので、変わる可能性を整理しておきます。
| 論点 | 現状 | 変わりうる方向 |
|---|---|---|
| デジタル証券の取扱い | 限られた証券会社 | 増える可能性がある |
| PTSの流動性 | 取引が少ない | 銘柄と参加者が増えれば改善する |
| 最低投資額 | 10万円〜100万円 | 下がる可能性がある |
| 不動産CFの税制 | 雑所得・損益通算不可 | 業界から要望は出ているが、見通しは立っていない |
| 不動産CFの流通 | 原則なし | 事業者ごとの取り組みにとどまる |
| NISAの対象 | どちらも対象外 | 見通しは立っていない |
最後の行を強調しておきます。デジタル証券もNISAの対象ではありません。第一項有価証券として扱われても、NISAの対象商品は上場株式と公募投資信託に限られています。
制度が変わることを前提に投資を決めるのは危険です。いまの制度でどうかで判断してください。将来の制度変更は、起きたときに考えれば足ります。
06よくある質問
登録や許可があれば安全ですか。
違います。登録・許可は最低限の体制と財産的基礎を確かめたもので、集めた資金が正しく使われることの保証ではありません。過去に事故を起こした事業者も、全社が登録業者でした。
登録番号はどこで確かめられますか。
金融商品取引業者は金融庁の「金融商品取引業者登録一覧」、不動産特定共同事業者は国土交通省の一覧で照合できます。どちらも無料で公開されています。
不動産型と融資型で、監督する役所は違いますか。
違います。不動産特定共同事業は国土交通省と都道府県、金融商品取引業と貸金業は金融庁(財務局)です。
元本を保証する商品はありますか。
ありません。出資を集めて元本を保証することは出資法で禁じられています。「元本保証」と書いてある業者には関わらないでください。
07この記事の数字は、どこから取ったか
会社名を挙げて処分や事故を書くにあたっては、照合を法人番号の完全一致に限りました。社名の部分一致で突き合わせると、似た社名の別会社の記録を拾ってしまいます。当サイトが実際に試したところ、82件が一致したように見えてそのほとんどが別会社でした。
できていないことも書きます。不動産特定共同事業者への監督処分は国土交通省・都道府県の所管で、この事例集には含まれていません。また償還後の実績は、事業型を除いてどの事業者も公表していないため、不動産型・融資型については「戻らなかった件数」を外から数えられません。
数字はいずれも元本を保証するものではなく、この記事は特定の商品の勧誘ではありません。
