01契約締結前交付書面は、法令で交付が義務づけられている
投資型クラウドファンディングで出資する前に、必ず渡される書面があります。名称は根拠法によって違います。
| 種別 | 書面の名称 | 根拠 | 交付の時期 |
|---|---|---|---|
| 不動産型 | 契約成立前書面 | 不動産特定共同事業法 | 契約が成立する前 |
| 融資型・事業型 | 契約締結前交付書面 | 金融商品取引法 | 契約の前 |
| 株式投資型 | 契約締結前交付書面+発行会社の情報 | 同上 | 同上 |
| すべて | 契約成立時書面/契約締結時交付書面 | 各法 | 契約の成立後、遅滞なく |
この書面は読まれることを前提に作られていません。法令で記載すべき事項が決まっていて、それを漏れなく書いた結果として長くなります。だから読む側が、どこを見るかを決めて読む必要があります。
02どこを、どの順番で読むか
優先度の高い順に並べます。全部読む時間がないなら、上から5つでも効果があります。
| 順 | 見るところ | 何が分かるか | 問題のある記載 |
|---|---|---|---|
| 1 | 優先劣後の割合 | 下落を何%まで事業者が引き受けるか | 記載がない、または会社の公表値と違う |
| 2 | 投資対象の具体的な内容 | 何に出すのか。所在地、現況、取得価格 | 記号だけ、または抽象的な記述 |
| 3 | 運用期間と延長の条件 | いつ戻るか。どんなときに延びるか | 「諸般の事情により延長することがある」だけ |
| 4 | 分別管理の方法 | 信託か、分別した預金口座か | 「適切に管理します」だけ |
| 5 | 手数料 | 出資時・運用中・出金時にかかる費用 | 記載が分散していて合計が分からない |
| 6 | 解約・譲渡の可否と条件 | 途中で資金が必要になったとき | 「当社が認めた場合に限る」だけ |
| 7 | リスクに関する事項 | どんな事象で損が出るか | 一般論だけで、この案件固有のリスクがない |
| 8 | 事業者の財務の状況 | 規模と体力 | 記載がない |
| 9 | 分配の方法と時期 | いつ、どうやって受け取るか | — |
| 10 | 苦情・紛争の窓口 | 困ったときにどこへ言うか | 記載がない |
1〜5が、募集ページや広告には出ていない情報です。つまり、書面を開かないと分からない部分に判断に効く情報が集まっています。
03記載すべき事項は、法令で決まっている
金融商品取引法と不動産特定共同事業法が、書面に書くべき事項を定めています。主なものを並べます。
| 記載事項 | 金商法(契約締結前交付書面) | 不特法(契約成立前書面) |
|---|---|---|
| 商号・名称・住所 | ○ | ○ |
| 登録番号・許可番号 | ○ | ○ |
| 契約の概要 | ○ | ○ |
| 手数料・報酬 | ○ | ○ |
| 元本欠損のおそれ | ○(目立つ方法で) | ○ |
| 損失の原因となる指標・事由 | ○ | ○ |
| 契約の解除に関する事項 | ○ | ○ |
| 苦情・紛争解決の窓口 | ○ | ○ |
| 投資対象の内容 | ○ | ○(物件の詳細) |
| 優先劣後の内訳 | — | ○ |
| 分別管理の方法 | ○ | ○ |
| 事業者の財務内容 | — | ○ |
5行目の「目立つ方法で」という点が重要です。金商法は、元本欠損のおそれを、利益の見込みの表示と同程度以上の大きさの文字で記載するよう求めています。
実務ではこの規定が守られているかどうかに幅があります。投資家の側では、大きい文字ではなく、小さい文字のほうを読むという習慣で対処するしかありません。
04書面を読まずに同意すると、何が起きるか
オンラインでの申し込みでは、「書面を確認しました」というチェックを入れて進みます。そのチェックには記録が残ります。
| 場面 | 投資家の立場 | 争えるか |
|---|---|---|
| 書面に書いてあったリスクが現実になった | 同意している | 争えない |
| 書面に書いていないリスクが現実になった | 説明を受けていない | 争える余地がある |
| 書面の記載と事実が違った | 虚偽の記載 | 争える |
| 書面が交付されなかった | 法令違反 | 争える。行政処分の対象 |
| 書面を読まずにチェックした | 読んだことになっている | 争いにくい |
| 書面の内容が難解で理解できなかった | 説明義務の履行が争点になる | 場合による |
5行目が現実です。読まずにチェックしても、「読んだ」という記録が残ります。あとから「知らなかった」と主張するのは非常に難しくなります。
だからこそ、チェックを入れる前に、前の節の1〜5だけでも確かめる。時間にして5分です。その5分が、事故が起きたときの立場を変えます。
05保存しておく理由
書面は必ず保存してください。理由は2つあります。
| 理由 | 中身 | いつ必要になるか |
|---|---|---|
| 説明義務違反を争う場合の証拠 | 「何が書かれていて、何が書かれていなかったか」を示す | 損害が発生したとき |
| 自分の判断の記録 | 何を前提に出資したかを思い出せる | 運用中、償還後 |
| 税務上の記録 | 契約の形、所得区分の確認 | 確定申告のとき |
| 相続のとき | 何に投資しているかの証拠 | 相続が発生したとき |
1行目が実務でいちばん効きます。金融サービス提供法は、重要事項の説明を怠ったことで損害が生じた場合に損害額の推定を働かせますが、「説明がなかったこと」は投資家の側が示す必要があります。
書面が手元にあれば、「この書面にはこう書かれていない」と示すことができます。手元になければ、事業者が提出する書面に反論する材料がありません。
保存の形は、PDFをローカルに保存が確実です。マイページからいつでも見られると思っていると、サービスが終了したときに取れなくなります。
06よくある質問
登録や許可があれば安全ですか。
違います。登録・許可は最低限の体制と財産的基礎を確かめたもので、集めた資金が正しく使われることの保証ではありません。過去に事故を起こした事業者も、全社が登録業者でした。
登録番号はどこで確かめられますか。
金融商品取引業者は金融庁の「金融商品取引業者登録一覧」、不動産特定共同事業者は国土交通省の一覧で照合できます。どちらも無料で公開されています。
不動産型と融資型で、監督する役所は違いますか。
違います。不動産特定共同事業は国土交通省と都道府県、金融商品取引業と貸金業は金融庁(財務局)です。
元本を保証する商品はありますか。
ありません。出資を集めて元本を保証することは出資法で禁じられています。「元本保証」と書いてある業者には関わらないでください。
07この記事の数字は、どこから取ったか
会社名を挙げて処分や事故を書くにあたっては、照合を法人番号の完全一致に限りました。社名の部分一致で突き合わせると、似た社名の別会社の記録を拾ってしまいます。当サイトが実際に試したところ、82件が一致したように見えてそのほとんどが別会社でした。
できていないことも書きます。不動産特定共同事業者への監督処分は国土交通省・都道府県の所管で、この事例集には含まれていません。また償還後の実績は、事業型を除いてどの事業者も公表していないため、不動産型・融資型については「戻らなかった件数」を外から数えられません。
数字はいずれも元本を保証するものではなく、この記事は特定の商品の勧誘ではありません。

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