01倒産隔離とは、何から何を隔離するのか
不動産の証券化や小口化では、物件を保有する器(SPC)を事業者本体から切り離す仕組みが使われます。これを倒産隔離といいます。
| 隔離するもの | 隔離される先 | 効き方 |
|---|---|---|
| 物件そのもの | SPC(特別目的会社) | 事業者が破綻しても、物件はSPCのもの |
| 投資家の資金 | 信託口座、分別された口座 | 事業者の財産と混ざらない |
| SPCの倒産 | 倒産隔離条項、独立した役員 | SPC自体が破産申立てをしないようにする |
| 親会社の倒産 | SPCの株式を一般社団法人などが保有 | 親会社の倒産手続きにSPCが巻き込まれないようにする |
この仕組みは、大規模な不動産証券化で確立されたものです。REITや私募ファンドでは標準的に使われています。投資型クラウドファンディングでも一部の案件で採用されています。
02SPCを使う仕組みと、使わない仕組み
不動産クラウドファンディングには、SPCを使う形と使わない形があります。違いを整理します。
| SPCを使わない(事業者が直接保有) | SPCを使う | |
|---|---|---|
| 物件の名義 | 事業者 | SPC |
| 事業者が破綻したとき | 物件が破産財団に入る可能性 | SPCの財産なので入らないのが原則 |
| 根拠 | 不動産特定共同事業(第1号事業) | 不特法の特例事業、または金商法(信託受益権) |
| 必要な登録 | 第1号事業者の許可 | 第3号・第4号事業者、または第二種金商業 |
| コスト | 低い | 高い(SPCの設立と維持) |
| 1件あたりの規模 | 小規模でも成立 | 大きくないと採算が合わない |
| 投資家から見た確認 | 事業者の財務 | SPCの構造と、物件の所有関係 |
5行目と6行目が、クラウドファンディングでSPCが使われにくい理由です。SPCの設立と維持には費用がかかるので、数千万円規模の案件では採算が合いません。
だから、1万円から募集する小規模な案件では事業者が直接物件を保有する形が中心です。この場合、倒産隔離は効きません。
03倒産隔離は、本当に効くのか
理屈のうえでは効きます。ただし、いくつかの前提があります。
| 前提 | 満たされないと | 投資家が確かめること |
|---|---|---|
| SPCが実質的に独立していること | 実質的に同一と判断されれば、法人格否認の可能性 | SPCの株主、役員の構成 |
| 物件がSPCの名義になっていること | 名義が事業者のままなら、隔離されない | 登記簿(誰でも取れる) |
| SPC自身が倒産しないこと | SPCが借入をしていれば、その返済が滞れば倒産する | SPCの借入の状況(開示されないことが多い) |
| 契約に倒産隔離条項があること | SPCが自ら破産申立てをする可能性 | 契約締結前交付書面 |
| 運用が適正に行われていること | 資金が流用されれば、器の話ではなくなる | — |
3行目が実務上いちばん重要です。SPCが借入をしていれば、SPC自体が倒産することがあります。物件を買うために金融機関から借りているのが通例なので、賃料が入らなければ返済が滞ります。
その場合、金融機関が物件を処分して回収し、残りがあれば出資者に回ります。出資者は借入の後ろです。倒産隔離は事業者の破綻から守る仕組みであって、物件の値下がりやSPCの資金繰りから守るものではありません。
04投資家が確かめられること
SPCの構造は募集ページに図で説明されていることがあります。確かめる項目を並べます。
| 確かめること | どこで | 分かること |
|---|---|---|
| 物件の所有者 | 募集ページ、登記簿 | 事業者名義か、SPC名義か |
| 登記簿の抵当権 | 登記簿(法務局で誰でも取れる) | 借入があるか、いくらか |
| SPCの商号 | 募集ページ | 実在するか(法人番号で確認できる) |
| SPCの株主 | 開示されないことが多い | 独立しているか |
| 優先劣後の位置 | 契約締結前交付書面 | 借入と出資の順位 |
| LTV(物件価値に対する借入の割合) | 募集ページ | 借入が多いほど、出資者の取り分は薄い |
2行目の登記簿が、投資家が自分で確かめられる数少ない一次資料です。物件の所在地が分かれば、法務局で登記事項証明書を取れます(オンラインなら数百円)。所有者と抵当権が書かれています。
抵当権の債権額が物件価格に近ければ、借入で買っているということです。その場合、出資者は借入の後ろに位置します。物件が値下がりしたとき、先に減るのは出資者の取り分です。
05種別ごとの、倒産隔離の実態
4種別で、事業者が破綻したときに何が効くかをまとめます。
| 種別 | 倒産隔離の仕組み | 実際の強さ |
|---|---|---|
| 不動産型(第1号事業・直接保有) | 分別管理のみ | 弱い。物件は事業者の名義 |
| 不動産型(特例事業・SPC) | SPCによる隔離 | 強い。ただし採用している案件は限られる |
| 不動産型(任意組合) | 投資家が共有持分を持つ | 強い。ただし手続きは複雑 |
| 融資型 | 信託保全が原則 | 待機資金は守られる。貸付に出たあとは貸付先のリスク |
| 株式投資型 | 資金が発行会社に渡る | 事業者の破綻の影響は小さい。発行会社のリスクは残る |
| 事業型 | 分別管理 | 待機資金のみ |
この表から言えることは一つです。どの仕組みも、「運用に出たあとの資金」は守りません。守るのは、まだ運用に出ていない資金と、事業者の破綻という一点だけです。
そして、投資家が金額を決めるときに効くのはこの仕組みの有無ではなく、投資対象そのもののリスクです。倒産隔離が完璧でも、物件が半値になれば元本は減ります。
06よくある質問
登録や許可があれば安全ですか。
違います。登録・許可は最低限の体制と財産的基礎を確かめたもので、集めた資金が正しく使われることの保証ではありません。過去に事故を起こした事業者も、全社が登録業者でした。
登録番号はどこで確かめられますか。
金融商品取引業者は金融庁の「金融商品取引業者登録一覧」、不動産特定共同事業者は国土交通省の一覧で照合できます。どちらも無料で公開されています。
不動産型と融資型で、監督する役所は違いますか。
違います。不動産特定共同事業は国土交通省と都道府県、金融商品取引業と貸金業は金融庁(財務局)です。
元本を保証する商品はありますか。
ありません。出資を集めて元本を保証することは出資法で禁じられています。「元本保証」と書いてある業者には関わらないでください。
07この記事の数字は、どこから取ったか
会社名を挙げて処分や事故を書くにあたっては、照合を法人番号の完全一致に限りました。社名の部分一致で突き合わせると、似た社名の別会社の記録を拾ってしまいます。当サイトが実際に試したところ、82件が一致したように見えてそのほとんどが別会社でした。
できていないことも書きます。不動産特定共同事業者への監督処分は国土交通省・都道府県の所管で、この事例集には含まれていません。また償還後の実績は、事業型を除いてどの事業者も公表していないため、不動産型・融資型については「戻らなかった件数」を外から数えられません。
数字はいずれも元本を保証するものではなく、この記事は特定の商品の勧誘ではありません。

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