01エンジェル税制とは、どんな制度か
創業して間もない企業に個人が投資したとき、所得税の優遇を受けられる制度です。正式には「特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等」(租税特別措置法)といいます。
| 区分 | 投資した年 | 売却した年 | 対象になる企業の目安 |
|---|---|---|---|
| 優遇措置A(起業特例を除く) | 投資額を総所得金額から控除(控除の上限あり) | 取得価額を調整するため、譲渡益が大きくなる | 設立5年未満で、研究開発費などの要件を満たす企業 |
| 優遇措置B | 投資額をその年の株式譲渡益から控除 | 同上 | 設立10年未満で、一定の要件を満たす企業 |
| プレシード・シード特例 | 株式譲渡益から控除し、一定の範囲で非課税 | 非課税の範囲では、取得価額の調整が不要 | 設立5年未満で、より初期の要件を満たす企業 |
| 株式の価値が失われたとき | — | 一定の要件で、株式の譲渡損失として扱える場合がある | 上のいずれかの対象企業 |
当サイトが集めた株式投資型の募集839件での適用状況です。
| 区分 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 適用なし | 427件 | 50.9% |
| B | 256件 | 30.5% |
| A | 149件 | 17.8% |
| 不明 | 7件 | 0.8% |
02優遇措置Aで、実際にいくら軽くなるか
優遇措置Aは、投資額をその年の総所得金額から控除します。控除できるのは「投資額」であって「税額」ではありません。軽くなる税額は、その人の税率によって変わります。
| 課税所得 | 所得税率 | 50万円を投資したときの所得税の軽減 | 住民税への影響 | 実質の負担 |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 約25,524円 | なし(住民税には適用されない) | 約474,476円 |
| 195万〜330万円 | 10% | 約51,049円 | なし(住民税には適用されない) | 約448,951円 |
| 330万〜695万円 | 20% | 約102,099円 | なし(住民税には適用されない) | 約397,901円 |
| 695万〜900万円 | 23% | 約117,414円 | なし(住民税には適用されない) | 約382,586円 |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 約168,464円 | なし(住民税には適用されない) | 約331,536円 |
| 1,800万〜4,000万円 | 40% | 約204,199円 | なし(住民税には適用されない) | 約295,801円 |
| 4,000万円超 | 45% | 約229,724円 | なし(住民税には適用されない) | 約270,276円 |
4列目に注意してください。エンジェル税制の優遇措置Aは、所得税だけです。住民税は軽くなりません。「50万円が全部戻る」ではありません。
そして控除には上限があります。総所得金額の40%と1,000万円のいずれか低いほう、といった制限があるので、所得が低い人は投資額の全額を控除できないことがあります。
03売るときに、何が起きるか
優遇措置AとBには、取得価額の調整という仕組みがあります。ここが制度のいちばん分かりにくい部分です。
| 段階 | 優遇なし | 優遇措置A・Bを使った場合 |
|---|---|---|
| 50万円を投資 | 取得価額50万円 | 取得価額50万円 |
| その年の税 | 軽減なし | 控除により軽減される |
| 取得価額の調整 | なし | 控除を受けた金額だけ、取得価額が下がる |
| 調整後の取得価額 | 50万円 | 0円(全額控除を受けた場合) |
| 100万円で売却 | 譲渡益50万円 | 譲渡益100万円 |
| 譲渡所得税(20.315%) | 約10.2万円 | 約20.3万円 |
| 差 | — | 約10.2万円多く納める |
つまり優遇措置AとBは、投資した年の税を減らし、売った年に取り戻される仕組みです。完全な減税ではなく、課税の繰り延べという性格が強い。
それでも意味はあります。手元の資金が投資した年に増えるので、その分を再投資できます。そして、投資先がうまくいかなければ売却益は出ないので、取り戻されることもありません。確率的には、優遇を受けたほうが有利です。
プレシード・シード特例は、一定の範囲で非課税になるので、取得価額の調整が不要な部分があります。これは繰り延べではなく、本当の減税です。
04手続きの順番
優遇を受けるには確定申告が必要です。自動では適用されません。
- 募集ページで対象かどうかを確認する。「エンジェル税制 優遇措置A」などと表示されています。対象でない募集では受けられません。
- 投資する。払込みが完了した年が、控除を受ける年になります。
- 発行会社から書類を受け取る。都道府県知事の確認書、株式の取得に関する確認書、投資契約書の写しなどです。発行会社が手続きをして、投資家に交付します。
- 確定申告をする。株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書、特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除の明細書、などを添付します。
- 取得価額の記録を残す。控除を受けた金額と、調整後の取得価額。売るときに必要になります。
3行目がいちばん時間がかかります。発行会社が都道府県の確認を取る必要があるためです。募集の時点で「対象」と書いてあっても、書類が届くのは年が明けてからになることがあります。確定申告の期限に間に合うかは、プラットフォームに確認してください。
05使うべき人と、使わなくてよい人
制度を使う価値があるかどうかは、所得と投資額で決まります。
| 状況 | 優遇措置A | 優遇措置B | プレシード・シード特例 |
|---|---|---|---|
| 課税所得が高い(900万円超) | 効く | 株式の譲渡益があれば効く | 効く |
| 課税所得が低い(330万円以下) | 効きは小さい | 同上 | 効きは小さい |
| その年に株式の譲渡益がある | — | 効く | 効く |
| 株式の譲渡益がない | こちらを使う | 使えない | 使えない |
| 法人で投資している | 使えない | 使えない | 使えない |
| 投資額が小さい(10万円程度) | 手間に見合わないことがある | 同上 | 同上 |
最後に、いちばん重要なことを書きます。エンジェル税制は、投資先を選ぶ理由になりません。優遇で戻るのは投資額の一部で、会社がうまくいかなければ残りは失われます。50万円を投資して16万円の税が軽くなっても、会社がゼロになれば34万円の損です。
制度は、投資すると決めたあとで使うものです。「税制の対象だから出す」という順番になっていたら、判断の順序が逆になっています。
06控除額を、所得と投資額の組み合わせで出す
優遇措置Aで、投資額と課税所得の組み合わせによる所得税の軽減額です。住民税は軽減されません。
| 課税所得\投資額 | 50,000円 | 100,000円 | 200,000円 | 300,000円 | 500,000円 | 1,000,000円 | 2,000,000円 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 150万円 | 2,552円 | 5,104円 | 10,209円 | 15,314円 | 25,524円 | 51,049円 | 102,099円 |
| 250万円 | 5,104円 | 10,209円 | 20,419円 | 30,629円 | 51,049円 | 102,099円 | 204,199円 |
| 400万円 | 10,209円 | 20,419円 | 40,839円 | 61,259円 | 102,099円 | 204,199円 | 408,399円 |
| 550万円 | 10,209円 | 20,419円 | 40,839円 | 61,259円 | 102,099円 | 204,199円 | 408,399円 |
| 800万円 | 11,741円 | 23,482円 | 46,965円 | 70,449円 | 117,414円 | 234,829円 | 469,659円 |
| 1,000万円 | 16,846円 | 33,693円 | 67,386円 | 101,078円 | 168,464円 | 336,929円 | 673,859円 |
| 1,500万円 | 16,846円 | 33,693円 | 67,386円 | 101,078円 | 168,464円 | 336,929円 | 673,859円 |
| 2,500万円 | 20,419円 | 40,839円 | 81,679円 | 122,519円 | 204,199円 | 408,399円 | 816,799円 |
| 5,000万円 | 22,972円 | 45,944円 | 91,889円 | 137,835円 | 229,724円 | 459,449円 | 918,899円 |
実質の負担(投資額から軽減額を引いたもの)です。
| 課税所得\投資額 | 50,000円 | 100,000円 | 200,000円 | 300,000円 | 500,000円 | 1,000,000円 | 2,000,000円 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 150万円 | 47,448円 | 94,896円 | 189,791円 | 284,686円 | 474,476円 | 948,951円 | 1,897,901円 |
| 250万円 | 44,896円 | 89,791円 | 179,581円 | 269,371円 | 448,951円 | 897,901円 | 1,795,801円 |
| 400万円 | 39,791円 | 79,581円 | 159,161円 | 238,741円 | 397,901円 | 795,801円 | 1,591,601円 |
| 550万円 | 39,791円 | 79,581円 | 159,161円 | 238,741円 | 397,901円 | 795,801円 | 1,591,601円 |
| 800万円 | 38,259円 | 76,518円 | 153,035円 | 229,551円 | 382,586円 | 765,171円 | 1,530,341円 |
| 1,000万円 | 33,154円 | 66,307円 | 132,614円 | 198,922円 | 331,536円 | 663,071円 | 1,326,141円 |
| 1,500万円 | 33,154円 | 66,307円 | 132,614円 | 198,922円 | 331,536円 | 663,071円 | 1,326,141円 |
| 2,500万円 | 29,581円 | 59,161円 | 118,321円 | 177,481円 | 295,801円 | 591,601円 | 1,183,201円 |
| 5,000万円 | 27,028円 | 54,056円 | 108,111円 | 162,165円 | 270,276円 | 540,551円 | 1,081,101円 |
課税所得1,000万円の人が50万円を投資すると、実質の負担は約33万円です。約17万円が、その年の所得税から軽減されます。
07対象になった募集の数だけを見る
当サイトが集めた株式投資型の募集のうち、優遇措置Aの表示があったのは149件、Bは256件でした。個別の募集の一覧はエンジェル投資家が見ている3つの指標に出しています。
| 区分 | 件数 | 構成比 | 対象になる企業の目安 |
|---|---|---|---|
| 優遇措置A | 149件 | 17.8% | 設立5年未満。要件が厳しい |
| 優遇措置B | 256件 | 30.5% | 設立10年未満 |
| 適用なし | 427件 | 50.9% | 要件を満たさない |
半分近くの募集が「適用なし」です。株式投資型に出せば必ず優遇が受けられる、というわけではありません。募集ページの表示を必ず確かめてください。
08申告に使う書類と、その入手
エンジェル税制の適用を受けるための書類です。発行会社が手続きをして、投資家に交付します。投資家が自分で都道府県に申請するわけではありません。
| 書類 | 誰が用意するか | いつ | 使い道 |
|---|---|---|---|
| 都道府県知事の確認書 | 発行会社が申請し、交付を受ける | 投資の翌年 | 特定中小会社であることの証明 |
| 株式の取得に関する確認書 | 発行会社 | 同上 | 取得した株式の確認 |
| 投資契約書の写し | プラットフォーム/発行会社 | 投資時 | 契約の証明 |
| 株式異動状況明細書 | 発行会社 | 投資の翌年 | 株主であることの証明 |
| 払込みを証する書面 | プラットフォーム | 投資時 | 払込みの証明 |
| 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 | 投資家が作成 | 申告時 | 申告書の添付書類 |
| 特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除の明細書 | 投資家が作成 | 申告時 | 同上 |
1行目と4行目が、確定申告の期限に間に合わないことがあります。発行会社が都道府県の確認を取る手続きに時間がかかるためです。
間に合わない場合、次の選択肢があります。
| 選択肢 | 中身 | 期限 |
|---|---|---|
| 期限内に申告し、あとで更正の請求をする | 書類がそろってから、税務署に更正の請求を出す | 法定申告期限から5年 |
| 期限後に申告する | 還付申告なら期限後でも受け付けられる | その年の翌年1月1日から5年 |
| 翌年の申告で対応する | できない。控除は投資した年に受ける | — |
3行目が重要です。エンジェル税制の控除は、投資した年に受けるものです。翌年にずらすことはできません。書類が遅れる場合は、更正の請求か期限後申告で対応することになります。
09制度を使う人の実際の手順
投資から申告までの流れを、時系列で書きます。
- 募集ページで対象かどうかを確認する(投資前)。「エンジェル税制 優遇措置A」などの表示を探します。表示がなければ対象外です。
- 確認書の交付時期を聞く(投資前)。プラットフォームに問い合わせます。「確定申告に間に合うか」を具体的に聞いてください。
- 投資する。払込みが完了した日が属する年が、控除を受ける年です。
- 払込みの記録を保存する。金額、株数、1株あたりの価格、日付。
- 年明けに書類を受け取る(1〜3月)。プラットフォームまたは発行会社から届きます。届かなければ問い合わせてください。
- 確定申告をする(2月16日〜3月15日)。明細書を作成し、確認書を添付します。e-Taxの場合、書類の提出方法は案内に従います。
- 取得価額の調整後の金額を記録する。控除を受けた額だけ取得価額が下がります。売るときに必要です。何年も先になるので、必ず残してください。
7行目がいちばん忘れられます。5年後、10年後にEXITが起きたとき、調整後の取得価額が分からないと譲渡所得を正しく計算できません。申告書の控えごと保存しておくのがいちばん確実です。
10よくある質問
分配金は確定申告が必要ですか。
給与所得者で、給与以外の所得の合計が年間20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です。ただし住民税の申告は別に必要になることがあります。
20.42%が引かれていました。これは何ですか。
所得税の源泉徴収です(所得税20%+復興特別所得税0.42%)。前払いなので、所得が低ければ確定申告で戻ることがあります。
損が出たら他の所得と相殺できますか。
雑所得の場合、他の所得とは相殺できません。同じ年の他の雑所得とだけ相殺できます。
損失を翌年に繰り越せますか。
雑所得の損失は繰り越せません。その年で切り捨てになります。
住民税はどうなりますか。
分配金にも住民税がかかります。税率は一律10%です。源泉徴収されているのは所得税だけで、住民税は別です。
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