01適格機関投資家等特例業務とは
金融商品取引法には、届出だけでファンドの募集・運用ができる特例があります。これが適格機関投資家等特例業務です。登録ではなく届出なので、参入の壁が低い。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | 金融商品取引法第63条 |
| 手続き | 届出(登録ではない) |
| 対象 | 集団投資スキーム持分の私募・運用 |
| 投資家の要件 | 適格機関投資家1名以上+一般投資家49名以下 |
| 一般投資家の範囲 | 2015年の改正で、投資判断能力のある者に限定された |
| 最低資本金 | 要件なし |
| 行為規制 | 登録業者より軽い |
4行目が制度の核心です。プロの投資家(適格機関投資家)が1人以上いれば、一般の投資家も49人まで受け入れられる。これが「特例」の中身です。
制度の趣旨は、プロ向けのファンドに登録業者と同じ規制をかけるのは重すぎる、というものでした。ところが実際には、この特例が悪用される事例が相次ぎました。
022015年の改正で何が変わったのか
特例を使って一般の個人から資金を集める業者が増え、被害が広がったため、2015年に金商法が改正されました。
| 改正前 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 一般投資家の範囲 | 実質的に制限がなかった | 投資判断能力を有する者に限定 |
| 対象になる一般投資家の例 | — | 上場会社、資本金5,000万円以上の法人、投資性金融資産1億円以上かつ取引経験1年以上の個人など |
| 届出の内容 | 簡素 | 詳細な届出が必要 |
| 届出者の情報 | 公表が限定的 | 金融庁が公表 |
| 欠格事由 | なし | あり(登録取消しから5年以内など) |
| 行為規制 | 軽い | 強化(契約締結前交付書面、適合性原則など) |
| 業務改善命令 | 限定的 | できる |
2行目が実務上いちばん効きました。投資性金融資産1億円以上という要件により、一般の個人は対象から外れます。いま適格機関投資家等特例業務で一般の個人が勧誘されることは、原則としてありません。
改正の前後で、処分の件数がどう動いたかを見ます。金融庁の行政処分事例集で、処分の内容に「適格機関投資家等特例業務」が含まれるものは3件ありました。
- 20141
- 20162
| 年度 | 金融機関等名 | 処分の種類 | 処分の内容 |
|---|---|---|---|
| 平成28年度 | トップゲイン株式会社 | 業務改善命令 | 当社が出資した全ての適格機関投資家等特例業務届出者に対し、今回の行政処分の内容を説明するとともに、同者に対し、同者が運営するファンドの出資者 |
| 平成28年度 | ドラグーンキャピタル株式会社 | 業務改善命令 | 本件に関与した全ての適格機関投資家等特例業務届出者に対し、今回の行政処分に至った経緯及び事実関係を正確に説明し、誠実に対応すること等 |
| 平成26年度 | リアルキャピタルマネジメント | 業務改善命令 | 当社が関与した適格機関投資家等特例業務届出者を全て把握し、当該届出者に対し、行政処分の事実及び理由について説明を行い、当該届出者に対し、当該 |
03投資型クラウドファンディングとの関係
いま国内で運営されている投資型クラウドファンディングの事業者は、この特例ではなく登録を受けています。一般の個人から資金を集めるには登録が必要だからです。
| 集める相手 | 必要な手続き | 投資家の要件 |
|---|---|---|
| 一般の個人 | 第二種金融商品取引業の登録 | なし |
| 一般の個人(不動産) | 不動産特定共同事業の許可 | なし |
| 一般の個人(株式) | 第一種少額電子募集取扱業務の登録 | 1社あたり年間50万円まで |
| プロと、投資判断能力のある者49名以下 | 適格機関投資家等特例業務の届出 | 投資性金融資産1億円以上の個人など |
だから、「適格機関投資家等特例業務の届出をしています」と書いてある業者が一般の個人に勧誘してきたら、それ自体が問題です。要件を満たさない個人に勧誘することはできません。
金融庁は届出者の一覧を公表しています。「適格機関投資家等特例業務届出者一覧」で検索すれば見られます。登録業者の一覧とは別なので、混同しないでください。
04届出と登録の、実務上の違い
投資家が知っておくべき違いを並べます。
| 登録(第二種金商業など) | 届出(特例業務) | |
|---|---|---|
| 行政の事前審査 | ある | 形式的な確認が中心 |
| 最低資本金 | 1,000万円以上 | 要件なし |
| 体制の整備 | 詳細に求められる | 改正後は一定の規制がある |
| 勧誘できる相手 | 一般の個人 | 限定される |
| 監督・検査 | 継続的 | 同左(改正後) |
| 行政処分 | 業務改善・停止・登録取消し | 業務改善・停止・業務廃止命令 |
| 公表 | 登録一覧に掲載 | 届出者一覧に掲載 |
| 投資家保護の規定 | 適用される | 改正後は多くが適用される |
改正によって差は縮まりましたが、勧誘できる相手が限定されている点は決定的な違いです。ここを見れば、一般の個人向けの商品かどうかが分かります。
05無登録・無届の業者を見分ける
この制度の周辺では、無登録・無届の業者が「プロ向けファンド」を装って勧誘する事例がありました。見分け方を並べます。
| 兆候 | なぜ問題か |
|---|---|
| 「プロ向けファンドなので登録は不要」と説明する | 一般の個人に勧誘する時点で要件を満たしていない |
| 「適格機関投資家がいるので大丈夫」と言う | 適格機関投資家がいても、一般投資家の要件は別 |
| 届出番号を示さない | 届出者は番号を持っている |
| 金融庁の届出者一覧に載っていない | 無届の可能性 |
| 元本保証をうたう | 出資法違反 |
| 高い利回りを断定的に説明する | 断定的判断の提供の禁止に反する |
| 個別に勧誘してくる | 登録・届出業者がこの形で勧誘することは通常ない |
金融庁は「免許・許可・登録等を受けていない業者」の一覧も公表しています。無登録で金融商品取引業を行っているとして警告した先のリストです。ここに名前があれば、それだけで関わらない理由になります。
投資型クラウドファンディングを探している人がこの制度に出会うことは、通常ありません。もし出会ったなら、なぜ自分がその案内を受けているのかを疑うところから始めてください。
06よくある質問
登録や許可があれば安全ですか。
違います。登録・許可は最低限の体制と財産的基礎を確かめたもので、集めた資金が正しく使われることの保証ではありません。過去に事故を起こした事業者も、全社が登録業者でした。
登録番号はどこで確かめられますか。
金融商品取引業者は金融庁の「金融商品取引業者登録一覧」、不動産特定共同事業者は国土交通省の一覧で照合できます。どちらも無料で公開されています。
不動産型と融資型で、監督する役所は違いますか。
違います。不動産特定共同事業は国土交通省と都道府県、金融商品取引業と貸金業は金融庁(財務局)です。
元本を保証する商品はありますか。
ありません。出資を集めて元本を保証することは出資法で禁じられています。「元本保証」と書いてある業者には関わらないでください。
07この記事の数字は、どこから取ったか
会社名を挙げて処分や事故を書くにあたっては、照合を法人番号の完全一致に限りました。社名の部分一致で突き合わせると、似た社名の別会社の記録を拾ってしまいます。当サイトが実際に試したところ、82件が一致したように見えてそのほとんどが別会社でした。
できていないことも書きます。不動産特定共同事業者への監督処分は国土交通省・都道府県の所管で、この事例集には含まれていません。また償還後の実績は、事業型を除いてどの事業者も公表していないため、不動産型・融資型については「戻らなかった件数」を外から数えられません。
数字はいずれも元本を保証するものではなく、この記事は特定の商品の勧誘ではありません。

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