01「20万円以下なら申告不要」は、所得税だけの話
よく言われる「年間20万円以下なら確定申告は不要」。これは正確には次のとおりです。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 給与を1か所から受けていて、年末調整を受けている人 |
| 内容 | 給与所得・退職所得以外の所得の合計額が20万円以下なら、所得税の確定申告をしなくてよい |
| 根拠 | 所得税法第121条 |
| 住民税 | この特例はない。本来は市区町村への申告が必要 |
最後の行が、この話のいちばん重要な部分です。所得税の申告が不要でも、住民税は課税されます。住民税に20万円の特例はありません。
実務上どうなっているか。事業者が支払調書を税務署に提出していれば、その情報が市区町村に回り、住民税が計算される場合があります。ただし必ず回るわけではなく、自治体の運用にも差があります。正しくは、市区町村に住民税の申告をするのが原則です。
0220万円の数え方
何をどう数えて20万円か。ここも誤解が多い部分です。
| 数え方 | 正しいか | 説明 |
|---|---|---|
| 1社あたりで20万円 | 誤り | 複数社の合計で判断する |
| 手取りの金額で20万円 | 誤り | 源泉徴収される前の金額で数える |
| 分配金だけで20万円 | 誤り | 給与・退職所得以外の所得すべての合計。副業、暗号資産、原稿料なども含む |
| 経費を引いたあとで20万円 | 正しい | 所得金額(収入-必要経費)で判断する |
| 1月から12月の合計で20万円 | 正しい | 暦年で数える |
3行目が実務でよく問題になります。給与以外の所得を全部足して20万円です。分配金が15万円でも、別に副業の所得が10万円あれば合計25万円で、申告が必要です。
| 収入の内訳 | 合計 | 所得税の確定申告 |
|---|---|---|
| 分配金18万円のみ | 18万円 | 不要 |
| 分配金18万円+副業5万円 | 23万円 | 必要 |
| 分配金18万円+暗号資産の利益10万円 | 28万円 | 必要 |
| 分配金25万円のみ | 25万円 | 必要 |
| 分配金18万円+医療費控除を受けたい | 18万円 | 申告するなら分配金も含める |
最後の行に注意してください。医療費控除やふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)、住宅ローン控除の初年度などで確定申告をするなら、20万円以下の所得も申告書に含める必要があります。「20万円以下だから書かなくていい」は、確定申告そのものをしない場合の話です。
03申告したほうが得になる場合
20万円以下でも、申告したほうが得になることがあります。源泉徴収されている場合です。
| 課税所得 | 所得税率 | 分配10万円の源泉徴収 | 本来の所得税(復興特別所得税込み) | 還付される額 |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 20,420円 | 5,104円 | +15,315円 |
| 195万〜330万円 | 10% | 20,420円 | 10,209円 | +10,210円 |
| 330万〜695万円 | 20% | 20,420円 | 20,419円 | +0円 |
| 695万〜900万円 | 23% | 20,420円 | 23,482円 | -3,062円 |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 20,420円 | 33,693円 | -13,273円 |
| 1,800万〜4,000万円 | 40% | 20,420円 | 40,839円 | -20,419円 |
| 4,000万円超 | 45% | 20,420円 | 45,944円 | -25,524円 |
課税所得が695万円以下の人は、申告すれば還付されます。20万円以下でも申告は任意でできるので、手間と金額を比べて決めてください。
ただし、申告すると住民税の計算にもその所得が入ります。住民税は10%なので、所得税の還付額から住民税の増加分を引いた額が実際の差になります。
| 課税所得 | 分配10万円 | 所得税の還付 | 住民税の増加 | 差引 |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 10万円 | +15,315円 | -10,000円 | +5,315円 |
| 195万〜330万円 | 10万円 | +10,210円 | -10,000円 | +210円 |
| 330万〜695万円 | 10万円 | +0円 | -10,000円 | -9,999円 |
| 695万〜900万円 | 10万円 | -3,062円 | -10,000円 | -13,062円 |
| 900万〜1,800万円 | 10万円 | -13,273円 | -10,000円 | -23,273円 |
| 1,800万〜4,000万円 | 10万円 | -20,419円 | -10,000円 | -30,419円 |
| 4,000万円超 | 10万円 | -25,524円 | -10,000円 | -35,524円 |
住民税は申告してもしなくても本来はかかるものなので、この表の「住民税の増加」は本来払うべきものを払うという意味です。節税の話ではなく、正しく納めるという話です。
04申告しなかったらどうなるか
はっきり書きます。申告が必要なのに申告しなければ、無申告です。税務署が把握する経路はいくつもあります。
| 把握される経路 | 中身 |
|---|---|
| 支払調書 | 事業者が税務署に提出する。誰にいくら支払ったかが分かる |
| 源泉徴収の記録 | 事業者が納付している。誰の分かが分かる |
| マイナンバー | 事業者は投資家のマイナンバーを取得している |
| 銀行口座の入金 | 調査になれば確認される |
| 法定調書の突合 | 税務署のシステムで照合される |
無申告加算税、延滞税がかかります。意図的に隠していたと判断されれば重加算税です。金額が小さくても、手間と不安のコストのほうが大きいので、申告するほうが合理的です。
そもそも、事業者がマイナンバーの提出を求めるのは支払調書に記載する義務があるからです。投資家が申告しなくても、支払いの記録は税務署に届いているという前提で考えるのが正確です。
05住民税の申告のしかた
所得税の確定申告をしない場合の、住民税の申告です。
- 市区町村の窓口かサイトで申告書を入手する。「市民税・県民税申告書」といった名称です。
- 雑所得の欄に、分配金の総額と必要経費を書く。事業者ごとの内訳を求められることがあります。
- 源泉徴収された額を書く。住民税は源泉徴収されていないので、所得税の源泉徴収額は住民税の計算には使われませんが、記載欄がある場合は書きます。
- 提出期限は、原則3月15日。所得税の確定申告と同じです。
自治体によって様式と運用が違うので、お住まいの市区町村に確認してください。「所得税の確定申告が不要な場合の住民税の扱い」を聞けば、必要かどうかを教えてもらえます。
実務的には、源泉徴収されている分配金だけなら、確定申告をしてしまうほうが簡単です。所得税の還付も受けられますし、住民税の申告は不要になります。e-Taxなら1時間ほどで終わります。
0620万円の判定を、組み合わせで確かめる
給与以外の所得の合計が20万円を超えるかどうか。分配金と他の所得の組み合わせで判定します。合計で判断することを、表で確かめてください。
| 分配金\他の雑所得 | 0円 | 30,000円 | 50,000円 | 100,000円 | 150,000円 | 200,000円 | 300,000円 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0円 | 不要 | 不要 | 不要 | 不要 | 不要 | 不要 | 必要 |
| 50,000円 | 不要 | 不要 | 不要 | 不要 | 不要 | 必要 | 必要 |
| 100,000円 | 不要 | 不要 | 不要 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 150,000円 | 不要 | 不要 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 180,000円 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 200,000円 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 250,000円 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 300,000円 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 500,000円 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 |
「他の雑所得」に入るもの:副業(事業と認められない規模のもの)、暗号資産の利益、原稿料や講演料、アフィリエイト収入、個人年金保険の年金、フリマアプリでの継続的な販売益など。
この表は所得税の確定申告についてです。住民税にこの特例はありません。「不要」と出ていても、住民税の申告は本来必要です。
07住民税だけは、金額にかかわらずかかる
所得税の20万円の特例があっても、住民税は分配金の全額に10%かかります。金額ごとに出します。
| 分配金 | 所得税の申告 | 住民税(10%) | 住民税の申告 | 源泉徴収されている所得税 |
|---|---|---|---|---|
| 30,000円 | 不要 | 3,000円 | 本来は必要 | 6,126円 |
| 50,000円 | 不要 | 5,000円 | 本来は必要 | 10,210円 |
| 100,000円 | 不要 | 10,000円 | 本来は必要 | 20,420円 |
| 150,000円 | 不要 | 15,000円 | 本来は必要 | 30,630円 |
| 190,000円 | 不要 | 19,000円 | 本来は必要 | 38,798円 |
| 200,000円 | 不要 | 20,000円 | 本来は必要 | 40,840円 |
| 210,000円 | 必要 | 21,000円 | 確定申告をすれば不要 | 42,882円 |
| 300,000円 | 必要 | 30,000円 | 確定申告をすれば不要 | 61,260円 |
| 500,000円 | 必要 | 50,000円 | 確定申告をすれば不要 | 102,100円 |
| 1,000,000円 | 必要 | 100,000円 | 確定申告をすれば不要 | 204,200円 |
5行目と6行目の境目に注目してください。19万円と20万円で、所得税の申告の要否が変わります。ところが住民税は、どちらもかかります。金額が1万円違うだけで、手続きの数が変わるという設計です。
実務的な結論は単純です。源泉徴収されているなら、金額にかかわらず確定申告をする。還付が受けられ、住民税の申告も不要になります。課税所得が高くて追納になる人だけ、20万円以下なら申告しないという選択が成り立ちます。
08自治体によって、住民税の扱いが違う
住民税の申告が必要かどうかは、自治体の運用によって差があります。確かめ方を書きます。
| 確かめること | どこに聞くか | 聞き方 |
|---|---|---|
| 住民税の申告が必要か | 市区町村の市民税課・住民税課 | 「給与以外に雑所得が○万円あり、所得税の確定申告はしない予定です。住民税の申告は必要ですか」 |
| 申告書の様式 | 同上 | サイトからダウンロードできることが多い |
| 提出の期限 | 同上 | 原則3月15日 |
| 源泉徴収の情報が回っているか | 同上 | 回っていれば申告不要とされる場合がある |
| 過去の分を申告できるか | 同上 | できる。期限後でも受け付けられる |
実務的には、所得税の確定申告をしてしまうほうが簡単です。確定申告をすれば、その情報が自動的に市区町村に送られるので、住民税の申告は不要になります。
そして源泉徴収されているなら、課税所得が550万円以下の人は確定申告をしたほうが戻ります。手間をかけて申告し、お金が戻り、住民税の申告も不要になる。3つとも都合がよい選択です。
0920万円以下でも申告が必要になる場面
特例が使えない場合があります。網羅的に並べます。
| 場面 | 申告が必要か | 理由 |
|---|---|---|
| 給与を2か所以上から受けている | 必要 | 年末調整は1か所でしかできない。従たる給与+他の所得が20万円以下なら不要になる場合もある |
| 給与の収入金額が2,000万円を超える | 必要 | 年末調整の対象外 |
| 同族会社の役員で、その会社から家賃などを受けている | 必要 | 金額にかかわらず申告が必要 |
| 医療費控除を受けたい | 申告するなら全部含める | 確定申告をする以上、20万円以下の所得も書く |
| 住宅ローン控除の1年目 | 同上 | 同上 |
| ふるさと納税でワンストップ特例を使わない | 同上 | 同上 |
| 株式の譲渡損失を繰り越したい | 同上 | 同上 |
| 給与所得者でない(自営業・無職など) | 所得の合計で判断 | 20万円の特例は給与所得者のためのもの |
4行目から7行目が、実務でいちばん多い見落としです。何かの理由で確定申告をするなら、20万円以下の所得も含めなければなりません。「20万円以下だから書かなくていい」は、確定申告そのものをしない場合に限った話です。
10扶養に入っている人の判定
扶養に入っている人が分配金を受け取る場合、20万円の話とは別の基準があります。合計所得金額で判定されます。
| 制度 | 基準 | 超えるとどうなるか |
|---|---|---|
| 配偶者控除(38万円) | 配偶者の合計所得金額62万円以下(令和8年分) | 控除がなくなる(配偶者特別控除に移る) |
| 配偶者特別控除 | 同133万円以下 | 段階的に減り、133万円超でゼロ |
| 扶養控除(16歳以上) | 扶養親族の合計所得金額62万円以下(令和8年分) | 控除がなくなる |
| 勤労学生控除 | 本人の合計所得金額89万円以下で、勤労によらない所得(分配金など)が10万円以下 | 控除がなくなる。分配金が10万円を超えると、それだけで対象外 |
| 社会保険の被扶養者 | 収入130万円未満(保険者の運用による) | 自分で健康保険に入る必要が生じる |
令和8年分では、分配金だけなら62万円が最初の線です(令和6年分までは48万円でした)。パートの給与がある場合は、給与所得控除(令和8年・9年は、給与収入220万円以下なら74万円)を引いたあとの金額と分配金を足して判定します。
| パートの給与収入 | 給与所得 | 分配金が62万円以内に収まる上限 |
|---|---|---|
| 0円 | 0円 | 620,000円 |
| 500,000円 | 0円 | 620,000円 |
| 800,000円 | 60,000円 | 560,000円 |
| 1,000,000円 | 260,000円 | 360,000円 |
| 1,030,000円 | 290,000円 | 330,000円 |
| 1,200,000円 | 460,000円 | 160,000円 |
| 1,360,000円 | 620,000円 | 0円 |
令和8年分では、給与収入136万円で給与所得が62万円になります(136万円−74万円)。いわゆる「103万円の壁」は、給与所得控除55万円・線48万円だった時期の計算です。分配金があれば、その分だけ給与の上限が下がります。
そして社会保険の被扶養者の判定は、税とは別の基準です。分配金が「収入」に入るかどうかは加入している健康保険組合の運用によります。金額が大きくなりそうなら、事前に確認してください。税で数万円得をして、社会保険料で年間数十万円の負担が増えることがあります。
11よくある質問
分配金は確定申告が必要ですか。
給与所得者で、給与以外の所得の合計が年間20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です。ただし住民税の申告は別に必要になることがあります。
20.42%が引かれていました。これは何ですか。
所得税の源泉徴収です(所得税20%+復興特別所得税0.42%)。前払いなので、所得が低ければ確定申告で戻ることがあります。
損が出たら他の所得と相殺できますか。
雑所得の場合、他の所得とは相殺できません。同じ年の他の雑所得とだけ相殺できます。
損失を翌年に繰り越せますか。
雑所得の損失は繰り越せません。その年で切り捨てになります。
住民税はどうなりますか。
分配金にも住民税がかかります。税率は一律10%です。源泉徴収されているのは所得税だけで、住民税は別です。
12この記事の数字は、どこから取ったか
会社名を挙げて処分や事故を書くにあたっては、照合を法人番号の完全一致に限りました。社名の部分一致で突き合わせると、似た社名の別会社の記録を拾ってしまいます。当サイトが実際に試したところ、82件が一致したように見えてそのほとんどが別会社でした。
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数字はいずれも元本を保証するものではなく、この記事は特定の商品の勧誘ではありません。

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