01AとBは、どこから控除するかが違う
エンジェル税制の優遇措置AとBは、控除する相手が違います。ここを取り違えると、自分にとってどちらが有利かを判断できません。
| 優遇措置A | 優遇措置B | |
|---|---|---|
| 控除する相手 | その年の総所得金額 | その年の株式等の譲渡益 |
| 使える人 | 所得があれば誰でも | その年に株式の譲渡益がある人だけ |
| 控除の上限 | 総所得金額×40%と1,000万円のいずれか低いほう | 上限なし(譲渡益の範囲まで) |
| 対象企業の要件 | 設立5年未満など、Bより厳しい | 設立10年未満など |
| 効き方 | 所得税率が高いほど大きい | 譲渡益の額による(税率は一律20.315%) |
| 住民税 | 軽減されない | 軽減されない |
| 取得価額の調整 | ある | ある |
いちばん大きな違いは2行目です。優遇措置Bは、その年に株式の譲渡益がないと使えません。上場株式を売って利益が出た年、投資信託を売って利益が出た年などが対象です。譲渡益がなければ、Bを選ぶ意味がありません。
02所得別に、どちらが得かを計算する
50万円を投資したとして、AとBでどれだけ税が軽くなるかを比べます。Bはその年の株式譲渡益が50万円以上ある前提です。
| 課税所得 | 所得税率 | Aによる軽減 | Bによる軽減 | 有利なのは |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 約25,524円 | 約101,575円 | B |
| 195万〜330万円 | 10% | 約51,049円 | 約101,575円 | B |
| 330万〜695万円 | 20% | 約102,099円 | 約101,575円 | A |
| 695万〜900万円 | 23% | 約117,414円 | 約101,575円 | A |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 約168,464円 | 約101,575円 | A |
| 1,800万〜4,000万円 | 40% | 約204,199円 | 約101,575円 | A |
| 4,000万円超 | 45% | 約229,724円 | 約101,575円 | A |
分岐点は、所得税率が約20%を超えるかどうかです。課税所得が695万円を超える人(税率23%以上)はAのほうが大きく、それ以下の人はBのほうが大きくなります。
ただし、Bは譲渡益の範囲でしか使えません。譲渡益が20万円しかなければ、50万円を投資しても20万円ぶんしか控除できません。
| その年の株式譲渡益 | 50万円を投資したときのBの控除額 | 軽減される税額 |
|---|---|---|
| 0円 | 0円 | 約0円 |
| 100,000円 | 100,000円 | 約20,315円 |
| 300,000円 | 300,000円 | 約60,945円 |
| 500,000円 | 500,000円 | 約101,575円 |
| 1,000,000円 | 500,000円 | 約101,575円 |
03どちらか一方しか選べない
同じ株式について、AとBの両方を使うことはできません。投資した年に、どちらかを選びます。
| 場面 | 選ぶもの | 理由 |
|---|---|---|
| 株式の譲渡益がない年 | A | Bは使えない |
| 譲渡益があり、課税所得が低い(695万円以下) | B | Bの実効20.315%のほうが、所得税率より高い |
| 譲渡益があり、課税所得が高い(900万円超) | A | 所得税率33%以上ならAのほうが大きい |
| 対象企業がBの要件しか満たさない | B | Aは要件が厳しい |
| 対象企業がAの要件も満たす | 上の基準で選ぶ | — |
| 投資額が総所得金額の40%を超える | Bも検討 | Aには控除の上限がある |
そして、複数の会社に投資している場合、会社ごとに選べます。A社にはAを、B社にはBを、という組み合わせもできます。ただし対象企業の要件を満たしている必要があります。
04実際の手取りで比べる
制度の説明だけでは分かりにくいので、同じ人が同じ金額を投資したときの数年間の流れを並べます。課税所得900万円、株式譲渡益100万円がある人の例です。
| 優遇なし | 優遇措置A | 優遇措置B | |
|---|---|---|---|
| 1年目:50万円を投資 | ▲500,000円 | ▲500,000円 | ▲500,000円 |
| 1年目:税の軽減 | 0円 | +168,464円 | +101,575円 |
| 1年目の実質負担 | ▲500,000円 | ▲331,536円 | ▲398,425円 |
| 取得価額 | 500,000円 | 331,535円 | 398,425円 |
| 5年後に100万円で売却:譲渡益 | 500,000円 | 668,465円 | 601,575円 |
| 譲渡所得税(20.315%) | ▲101,575円 | ▲135,798円 | ▲122,209円 |
| 通算の損益 | +398,425円 | +532,666円 | +479,366円 |
売却益が出た場合、優遇の効果は圧縮されます。それでも、優遇を受けたほうが手取りは多くなります。取得価額の調整で取り戻されるのは、軽減された税額の一部(譲渡所得の税率ぶん)だけだからです。
そして、売却益が出なかった場合(会社がうまくいかなかった場合)、優遇はそのまま残ります。この非対称性が、制度の本質です。
05プレシード・シード特例との関係
3つ目の選択肢として、プレシード・シード特例があります。こちらは非課税の枠がある点が大きく違います。
| 優遇措置A | 優遇措置B | プレシード・シード特例 | |
|---|---|---|---|
| 控除する相手 | 総所得金額 | 株式譲渡益 | 株式譲渡益 |
| 取得価額の調整 | ある | ある | 一定額まで不要 |
| 実質 | 課税の繰り延べ+一部減税 | 同左 | 非課税 |
| 対象企業 | 設立5年未満・要件あり | 設立10年未満・要件あり | 設立5年未満・より初期の要件 |
| 上限 | 総所得×40%と1,000万円の低いほう | 譲渡益の範囲 | 年間20億円まで(非課税の範囲) |
要件を満たすなら、プレシード・シード特例がいちばん有利です。ただし対象になる企業は限られます。より初期の、よりリスクの高い企業が対象だからです。
制度が初期の企業ほど手厚くしているのは、その段階の資金が集まりにくいからです。投資家から見れば、優遇が厚い=リスクが高いという対応関係があると理解しておくのが正確です。
06AとBの軽減額を、同じ表で比べる
優遇措置Aは所得税率に比例し、Bは一律20.315%です。投資額ごとに並べて比べます。
| 投資額 | Bによる軽減(一律20.315%) | Aによる軽減(課税所得400万円) | Aによる軽減(800万円) | Aによる軽減(1,000万円) | Aによる軽減(5,000万円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 50,000円 | 10,157円 | 10,209円 | 11,741円 | 16,846円 | 22,972円 |
| 100,000円 | 20,315円 | 20,419円 | 23,482円 | 33,693円 | 45,944円 |
| 200,000円 | 40,630円 | 40,839円 | 46,965円 | 67,386円 | 91,889円 |
| 300,000円 | 60,945円 | 61,259円 | 70,449円 | 101,078円 | 137,835円 |
| 500,000円 | 101,575円 | 102,099円 | 117,414円 | 168,464円 | 229,724円 |
| 1,000,000円 | 203,150円 | 204,199円 | 234,829円 | 336,929円 | 459,449円 |
| 2,000,000円 | 406,300円 | 408,399円 | 469,659円 | 673,859円 | 918,899円 |
| 3,000,000円 | 609,450円 | 612,600円 | 704,489円 | 1,010,789円 | 1,378,349円 |
課税所得400万円(税率20%)の人はBのほうが大きく、800万円(23%)を超えるとAが逆転します。所得税率が約20%が分岐点です。
| 課税所得\投資額 | 100,000円 | 300,000円 | 500,000円 | 1,000,000円 | 2,000,000円 |
|---|---|---|---|---|---|
| 150万円 | B | B | B | B | B |
| 250万円 | B | B | B | B | B |
| 400万円 | A | A | A | A | A |
| 550万円 | A | A | A | A | A |
| 800万円 | A | A | A | A | A |
| 1,000万円 | A | A | A | A | A |
| 1,500万円 | A | A | A | A | A |
| 2,500万円 | A | A | A | A | A |
| 5,000万円 | A | A | A | A | A |
07Bの上限は、その年の譲渡益
優遇措置Bは、その年の株式等の譲渡益の範囲でしか控除できません。譲渡益が小さければ、投資額の全額を控除できません。
| 譲渡益\投資額 | 100,000円 | 300,000円 | 500,000円 | 1,000,000円 | 3,000,000円 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 100,000円 | 100,000円 | 100,000円 | 100,000円 | 100,000円 | 100,000円 |
| 300,000円 | 100,000円 | 300,000円 | 300,000円 | 300,000円 | 300,000円 |
| 500,000円 | 100,000円 | 300,000円 | 500,000円 | 500,000円 | 500,000円 |
| 1,000,000円 | 100,000円 | 300,000円 | 500,000円 | 1,000,000円 | 1,000,000円 |
| 3,000,000円 | 100,000円 | 300,000円 | 500,000円 | 1,000,000円 | 3,000,000円 |
控除できる金額です。譲渡益がゼロなら、Bは使えません。その場合はAを選ぶことになります。
一方、優遇措置Aの上限は総所得金額×40%と1,000万円のいずれか低いほうです。(起業特例などでは別の上限があります。)
| 総所得金額 | 40% | 上限(1,000万円との低いほう) | この人が控除できる最大 |
|---|---|---|---|
| 3,000,000円 | 1,200,000円 | 1,200,000円 | 1,200,000円 |
| 5,000,000円 | 2,000,000円 | 2,000,000円 | 2,000,000円 |
| 8,000,000円 | 3,200,000円 | 3,200,000円 | 3,200,000円 |
| 12,000,000円 | 4,800,000円 | 4,800,000円 | 4,800,000円 |
| 20,000,000円 | 8,000,000円 | 8,000,000円 | 8,000,000円 |
| 30,000,000円 | 12,000,000円 | 10,000,000円 | 10,000,000円 |
| 50,000,000円 | 20,000,000円 | 10,000,000円 | 10,000,000円 |
総所得金額が300万円の人は、120万円までしか控除できません。それ以上を投資しても、超えた分は控除の対象になりません。
08売ったときに、どれだけ取り戻されるか
AとBのどちらも、控除を受けた分だけ取得価額が下がります。売ったときに譲渡益が大きく計算されるので、控除額×20.315%が取り戻される形になります。
| 控除額 | 取得価額の減少 | 売ったときの追加の税 | 実質の減税額 | 減税率(投資額50万円に対して) |
|---|---|---|---|---|
| 100,000円 | 100,000円 | 20,315円 | 79,685円 | 15.9% |
| 200,000円 | 200,000円 | 40,630円 | 159,370円 | 31.9% |
| 300,000円 | 300,000円 | 60,945円 | 239,055円 | 47.8% |
| 400,000円 | 400,000円 | 81,260円 | 318,740円 | 63.7% |
| 500,000円 | 500,000円 | 101,575円 | 398,425円 | 79.7% |
ただし、これは売却益が出た場合の話です。会社がうまくいかず、売ることもできなければ、取り戻されません。
| 結果 | Aを使った場合の最終的な損益(投資50万円・課税所得1,000万円) |
|---|---|
| 会社が倒産(ゼロ) | ▲500,000円 + 軽減168,464円 = ▲331,536円 |
| 1倍で売却(50万円) | +軽減168,464円 ▲譲渡税101,575円 = +66,889円 |
| 2倍で売却(100万円) | +利益500,000円 +軽減168,464円 ▲譲渡税203,150円 = +465,314円 |
| 3倍で売却(150万円) | +利益1,000,000円 +軽減168,464円 ▲譲渡税304,725円 = +863,739円 |
1行目が重要です。倒産した場合、税の軽減だけが残ります。50万円を失っても、実質の損は約33万円に抑えられます。これがエンジェル税制の意味です。
09どちらを選ぶか、判断の表
状況ごとに、選ぶべき区分を並べます。
| その年の株式譲渡益 | 課税所得 | 対象企業の区分 | 選ぶもの | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| なし | どれでも | AとBの両方に該当 | A | Bは使えない |
| なし | どれでも | Bのみ該当 | 使えない | 譲渡益がないのでBの控除先がない |
| あり(十分な額) | 695万円以下 | 両方に該当 | B | 20.315%のほうが所得税率より高い |
| あり(十分な額) | 695万〜900万円 | 両方に該当 | A | 税率23%×1.021=23.5%>20.315% |
| あり(十分な額) | 900万円超 | 両方に該当 | A | 税率33%以上で明確にAが有利 |
| あり(少額) | どれでも | 両方に該当 | A | Bは譲渡益の範囲でしか控除できない |
| あり | どれでも | プレシード・シード特例に該当 | プレシード・シード特例 | 非課税の枠がある |
実務上は、対象企業がどの区分に該当するかを発行会社が決めるので、投資家が自由に選べるとは限りません。募集ページに「優遇措置B」とだけ書いてあれば、Bしか使えません。
10複数の会社に投資している場合
会社ごとに区分を選べます。組み合わせの例を示します。課税所得1,000万円、株式譲渡益50万円の人が3社に各30万円を投資した場合です。
| 会社 | 該当する区分 | 選ぶもの | 控除額 | 軽減される税額 |
|---|---|---|---|---|
| X社 | AとBの両方 | A | 300,000円 | 101,078円 |
| Y社 | Bのみ | B | 300,000円 | 60,945円 |
| Z社 | Bのみ | B(残りの譲渡益まで) | 200,000円 | 40,630円 |
| 合計 | — | — | 800,000円 | 202,653円 |
Z社は、譲渡益50万円からY社の30万円を引いた残り20万円までしか控除できません。Bの控除は、譲渡益の枠を食い合います。
だから複数社に投資する年は、Aが使える会社にはAを使い、Bの枠はBしか使えない会社に回すのが効率的です。ただし対象企業の区分は発行会社が決めるので、思いどおりに組めるとは限りません。
11よくある質問
分配金は確定申告が必要ですか。
給与所得者で、給与以外の所得の合計が年間20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です。ただし住民税の申告は別に必要になることがあります。
20.42%が引かれていました。これは何ですか。
所得税の源泉徴収です(所得税20%+復興特別所得税0.42%)。前払いなので、所得が低ければ確定申告で戻ることがあります。
損が出たら他の所得と相殺できますか。
雑所得の場合、他の所得とは相殺できません。同じ年の他の雑所得とだけ相殺できます。
損失を翌年に繰り越せますか。
雑所得の損失は繰り越せません。その年で切り捨てになります。
住民税はどうなりますか。
分配金にも住民税がかかります。税率は一律10%です。源泉徴収されているのは所得税だけで、住民税は別です。
12この記事の数字は、どこから取ったか
会社名を挙げて処分や事故を書くにあたっては、照合を法人番号の完全一致に限りました。社名の部分一致で突き合わせると、似た社名の別会社の記録を拾ってしまいます。当サイトが実際に試したところ、82件が一致したように見えてそのほとんどが別会社でした。
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