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プレシード特例とは?非課税枠を使う条件と、対象になる募集

読む目安:「先に結論」だけなら1分/全部で約10分(5千字)

01プレシード・シード特例とは何か

エンジェル税制の中で、唯一「非課税」がある枠です。2023年度の税制改正で作られました。正式には「特定株式の取得に要した金額の課税の特例」(設立の日以後の期間が5年未満の中小企業者に係るもの)です。

項目内容
控除する相手その年の株式等の譲渡益
非課税になる範囲年間20億円までの投資について、取得価額の調整が不要(非課税)
20億円を超える部分従来のとおり取得価額を調整する(課税の繰り延べ)
対象になる企業設立5年未満で、営業損益がマイナス、外部からの出資が一定割合以上、といった要件を満たす企業
投資の形発行される株式を取得すること(既存株主からの購入は対象外)
手続き確定申告。都道府県知事の確認が必要

通常の優遇措置AとBは、投資した年に控除した分だけ株式の取得価額が下がり、売ったときに譲渡益が大きく計算されます。課税の繰り延べです。

プレシード・シード特例では、年間20億円までの部分についてこの調整が行われません。つまり投資した年に税が軽くなり、売った年にも取り戻されない。これが「非課税」の意味です。

02どれだけ効くのか、金額で見る

50万円を投資して、5年後に150万円で売却した場合を比べます。株式譲渡益が十分にある人の例です。

優遇なし優遇措置Bプレシード・シード特例
投資額500,000円500,000円500,000円
投資した年の控除なし500,000円500,000円
投資した年の税の軽減0円101,575円101,575円
取得価額の調整なし取得価額が398,425円に下がる調整なし。500,000円のまま
150万円で売却:譲渡益1,000,000円1,101,575円1,000,000円
譲渡所得税203,150円223,784円203,150円
通算の手取り796,850円877,791円898,425円
横にスクロールすると残りの列が見えます

差は、投資した年に控除した金額に対する譲渡所得税のぶんです。50万円の控除なら約10万円。投資額に対して20%ほど有利になります。

そして会社がうまくいかなかった場合、売却益は出ないので、優遇措置Bとプレシード・シード特例の差は生じません。この特例が効くのは、投資先が成功したときです。

03対象になる企業の要件

要件は細かく、投資家の側で判断するのは現実的ではありません。発行会社が都道府県の確認を取っているかどうかで決まります。それでも、どんな企業が対象になるかの目安は知っておく価値があります。

要件の柱目安意味すること
設立からの期間5年未満創業直後の企業
営業損益マイナスであることまだ黒字化していない企業
外部からの出資一定割合以上創業者だけの会社ではない
大企業の子会社でない—独立していること
特定の業種でない—風俗営業など一部の業種は対象外
投資の形新しく発行される株式を引き受けること既存株主から買うのは対象外

2行目が重要です。営業損益がマイナスであることが要件になっています。つまりこの特例の対象は、まだ黒字になっていない、より初期の企業です。

制度が初期の企業ほど優遇を厚くしているのは、その段階の資金が集まりにくいからです。投資家から見れば、優遇が厚い企業ほどリスクが高いという対応関係があります。税の有利さだけで選ぶと、いちばんリスクの高い企業に集中することになります。

04株式投資型クラウドファンディングで使えるのか

使えます。当サイトが集めた株式投資型の募集839件のうち、エンジェル税制の区分が表示されていたものを数えます。

区分件数構成比
適用なし427件50.9%
B256件30.5%
A149件17.8%
不明7件0.8%

募集ページには「A」「B」「適用なし」といった形で表示されていることが多く、プレシード・シード特例が別途表示される場合もあります。表示は募集の時点のもので、確定は都道府県の確認を経てからです。

確かめることどこでいつ
対象かどうかの表示募集ページ投資する前
どの区分か同上同上
確認書の交付時期プラットフォームへの問い合わせ投資する前
実際の書類発行会社から交付される年明け
申告の期限に間に合うか同上年明け

3行目と5行目が実務でいちばん問題になります。書類が確定申告の期限に間に合わないことがあります。発行会社が都道府県の確認を取る手続きに時間がかかるためです。間に合わない場合は、期限後に更正の請求をするか、翌年に申告することになります。投資する前に、プラットフォームに確認してください。

053つの優遇を、選ぶ順番

対象企業がどの区分にも当てはまる場合、選ぶ順番を整理します。

  1. その年に株式の譲渡益があるか。なければ、優遇措置Aしか使えません。
  2. 譲渡益があり、対象がプレシード・シード特例に当てはまるか。当てはまるなら、これがいちばん有利です。非課税だからです。
  3. 当てはまらない場合、AとBを比べる。課税所得が695万円を超えるならA、それ以下ならBのほうが大きくなります。
  4. 控除の上限を確認する。Aには総所得金額×40%と1,000万円の上限があります。投資額が大きい場合は、Bのほうが多く控除できることがあります。
  5. 複数の会社に投資しているなら、会社ごとに選ぶ。組み合わせられます。

そして最後に、同じことを繰り返し書きます。税の優遇は、投資先を選ぶ理由になりません。優遇で戻るのは投資額の一部で、会社がうまくいかなければ残りは失われます。

プレシード・シード特例の対象は営業損益がマイナスの、設立5年未満の企業です。税制がいちばん手厚いということは、いちばん資金が集まりにくい段階だということでもあります。その意味を理解したうえで使ってください。

06非課税の効果を、投資額と倍率で計算する

プレシード・シード特例は、控除を受けても取得価額が下がりません(年間20億円までの範囲)。売ったときに取り戻されないので、その分だけ手取りが多くなります。

投資額\売却倍率0倍0.5倍1倍1.5倍2倍3倍5倍10倍
100,000円20,315円20,315円20,315円20,315円20,315円20,315円20,315円20,315円
200,000円40,630円40,630円40,630円40,630円40,630円40,630円40,630円40,630円
300,000円60,945円60,945円60,945円60,945円60,945円60,945円60,945円60,945円
500,000円101,575円101,575円101,575円101,575円101,575円101,575円101,575円101,575円
1,000,000円203,150円203,150円203,150円203,150円203,150円203,150円203,150円203,150円
2,000,000円406,300円406,300円406,300円406,300円406,300円406,300円406,300円406,300円
横にスクロールすると残りの列が見えます

表の値は優遇措置Bと比べたときの差です。売却の倍率にかかわらず、控除額×20.315%だけプレシード・シード特例が有利になります(売却益が出た場合)。

投資額Bで売却益が出たときに取り戻される額プレシード・シード特例では差
100,000円20,315円0円20,315円
200,000円40,630円0円40,630円
300,000円60,945円0円60,945円
500,000円101,575円0円101,575円
1,000,000円203,150円0円203,150円
横にスクロールすると残りの列が見えます

07設立からの年数で、対象かどうかの見当をつける

プレシード・シード特例の対象は設立5年未満です。募集ページに設立年が出ているので、そこから見当をつけられます。ただし設立年だけでは決まりません。営業損益や外部出資の要件もあります。

設立からの年数優遇措置A優遇措置Bプレシード・シード特例
0年対象になりうる対象になりうる対象になりうる
1年対象になりうる対象になりうる対象になりうる
2年対象になりうる対象になりうる対象になりうる
3年対象になりうる対象になりうる対象になりうる
4年対象になりうる対象になりうる対象になりうる
5年対象外対象になりうる対象外
6年対象外対象になりうる対象外
8年対象外対象になりうる対象外
10年対象外対象外対象外
12年対象外対象外対象外
横にスクロールすると残りの列が見えます

株式投資型で調達する企業は、設立から数年以内が中心です。企業ごとの設立年はシード期とアーリー期で何が変わるかにまとめました。

08非課税枠と、他の特例の関係

プレシード・シード特例には年間20億円という非課税の枠があります。個人投資家でこの枠を使い切る人はまずいませんが、制度の形として知っておく価値があります。

枠金額超えた場合
非課税の枠年間20億円超えた部分は従来どおり取得価額を調整
優遇措置Aの控除の上限総所得金額×40%と1,000万円のいずれか低いほう控除できない
優遇措置Bの控除の上限その年の株式等の譲渡益の範囲同上
株式投資型の投資の上限1社あたり年間50万円投資できない(金商法の規制)

4行目が実務的な制約です。株式投資型クラウドファンディングで投資できるのは1社あたり年間50万円までなので、非課税の枠を使い切ることはありません。10社に50万円ずつ出しても500万円です。

20億円という枠は、エンジェル投資家が直接投資する場合を想定したものです。クラウドファンディングの投資家にとっては、実質的に「上限なし」と考えて差し支えありません。

09要件を満たすかどうかの確かめ方

投資家の側で要件を判定することはできません。発行会社が都道府県の確認を取る仕組みだからです。それでも、確かめる手順はあります。

  1. 募集ページの表示を見る。「プレシード・シード特例」と明記されていれば対象です。「優遇措置A」「優遇措置B」としか書かれていなければ、そちらです。
  2. 設立年を見る。5年以上前に設立されていれば、この特例の対象にはなりません。
  3. 業績の記載を見る。営業損益がマイナスであることが要件なので、黒字の会社は対象外です。
  4. プラットフォームに問い合わせる。「この募集はプレシード・シード特例の対象ですか」と直接聞くのがいちばん確実です。
  5. 確認書の交付時期を聞く。確定申告に間に合うかどうか。

3行目が、この特例の性格をよく表しています。黒字の会社は対象外です。税制がいちばん手厚いのは、まだ利益が出ていない、最も初期の企業だということです。

10この特例を、投資判断にどう使うか

結論を先に書きます。使わないでください。税の優遇は、投資先を選ぶ理由になりません。

考え方正しいか理由
非課税だから、この会社に出す誤り非課税になるのは税の部分だけ。元本が失われれば意味がない
投資すると決めたあとで、特例が使えるか確かめる正しい順序として正しい
特例の対象企業は、より初期でリスクが高いと理解する正しい営業損益がマイナスであることが要件
特例が使える分、出す金額を増やす危険実質の負担が下がるのは事実だが、失う可能性も同じだけある
特例が使えない会社を避ける誤り特例の対象外=黒字が出ている、という場合もある

5行目が見落とされがちです。特例の対象でないことは、その会社が悪いことを意味しません。設立から5年以上経っている、営業損益が黒字になっている、といった理由で対象外になることがあります。それらはむしろ、事業が進んでいる証拠です。

税制の手厚さと、投資先としての良し悪しは、むしろ逆の方向を向いていると考えてください。制度は資金が集まりにくいところを助けるために作られています。

11よくある質問

分配金は確定申告が必要ですか。

給与所得者で、給与以外の所得の合計が年間20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です。ただし住民税の申告は別に必要になることがあります。

20.42%が引かれていました。これは何ですか。

所得税の源泉徴収です(所得税20%+復興特別所得税0.42%)。前払いなので、所得が低ければ確定申告で戻ることがあります。

損が出たら他の所得と相殺できますか。

雑所得の場合、他の所得とは相殺できません。同じ年の他の雑所得とだけ相殺できます。

損失を翌年に繰り越せますか。

雑所得の損失は繰り越せません。その年で切り捨てになります。

住民税はどうなりますか。

分配金にも住民税がかかります。税率は一律10%です。源泉徴収されているのは所得税だけで、住民税は別です。

12この記事の数字は、どこから取ったか

会社名を挙げて処分や事故を書くにあたっては、照合を法人番号の完全一致に限りました。社名の部分一致で突き合わせると、似た社名の別会社の記録を拾ってしまいます。当サイトが実際に試したところ、82件が一致したように見えてそのほとんどが別会社でした。

できていないことも書きます。不動産特定共同事業者への監督処分は国土交通省・都道府県の所管で、この事例集には含まれていません。また償還後の実績は、事業型を除いてどの事業者も公表していないため、不動産型・融資型については「戻らなかった件数」を外から数えられません。

数字はいずれも元本を保証するものではなく、この記事は特定の商品の勧誘ではありません。

自分の数字で確かめる:どこに置くと、いくら増える?

はじめての人へ

    税金を引いた後の金額です(単利)。満期が先に来るものは同じ利率で入れ直したとします。元本割れ・遅延・中途換金は含みません。 預金は日本銀行の平均金利(2026年9月)、国債は今月の利率、社債は個人向け社債30本の利率の中央値、クラファンは不動産型の実案件1194件の想定利回りの中央値です。 クラファンの分配金は雑所得なので、所得税×1.021+住民税10%で計算しています。年収からの税率は、独身の会社員で社会保険料を年収の15%とした目安です(扶養やiDeCoなどがあると下がります)。

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