01プレシード・シード特例とは何か
エンジェル税制の中で、唯一「非課税」がある枠です。2023年度の税制改正で作られました。正式には「特定株式の取得に要した金額の課税の特例」(設立の日以後の期間が5年未満の中小企業者に係るもの)です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 控除する相手 | その年の株式等の譲渡益 |
| 非課税になる範囲 | 年間20億円までの投資について、取得価額の調整が不要(非課税) |
| 20億円を超える部分 | 従来のとおり取得価額を調整する(課税の繰り延べ) |
| 対象になる企業 | 設立5年未満で、営業損益がマイナス、外部からの出資が一定割合以上、といった要件を満たす企業 |
| 投資の形 | 発行される株式を取得すること(既存株主からの購入は対象外) |
| 手続き | 確定申告。都道府県知事の確認が必要 |
通常の優遇措置AとBは、投資した年に控除した分だけ株式の取得価額が下がり、売ったときに譲渡益が大きく計算されます。課税の繰り延べです。
プレシード・シード特例では、年間20億円までの部分についてこの調整が行われません。つまり投資した年に税が軽くなり、売った年にも取り戻されない。これが「非課税」の意味です。
02どれだけ効くのか、金額で見る
50万円を投資して、5年後に150万円で売却した場合を比べます。株式譲渡益が十分にある人の例です。
| 優遇なし | 優遇措置B | プレシード・シード特例 | |
|---|---|---|---|
| 投資額 | 500,000円 | 500,000円 | 500,000円 |
| 投資した年の控除 | なし | 500,000円 | 500,000円 |
| 投資した年の税の軽減 | 0円 | 101,575円 | 101,575円 |
| 取得価額の調整 | なし | 取得価額が398,425円に下がる | 調整なし。500,000円のまま |
| 150万円で売却:譲渡益 | 1,000,000円 | 1,101,575円 | 1,000,000円 |
| 譲渡所得税 | 203,150円 | 223,784円 | 203,150円 |
| 通算の手取り | 796,850円 | 877,791円 | 898,425円 |
差は、投資した年に控除した金額に対する譲渡所得税のぶんです。50万円の控除なら約10万円。投資額に対して20%ほど有利になります。
そして会社がうまくいかなかった場合、売却益は出ないので、優遇措置Bとプレシード・シード特例の差は生じません。この特例が効くのは、投資先が成功したときです。
03対象になる企業の要件
要件は細かく、投資家の側で判断するのは現実的ではありません。発行会社が都道府県の確認を取っているかどうかで決まります。それでも、どんな企業が対象になるかの目安は知っておく価値があります。
| 要件の柱 | 目安 | 意味すること |
|---|---|---|
| 設立からの期間 | 5年未満 | 創業直後の企業 |
| 営業損益 | マイナスであること | まだ黒字化していない企業 |
| 外部からの出資 | 一定割合以上 | 創業者だけの会社ではない |
| 大企業の子会社でない | — | 独立していること |
| 特定の業種でない | — | 風俗営業など一部の業種は対象外 |
| 投資の形 | 新しく発行される株式を引き受けること | 既存株主から買うのは対象外 |
2行目が重要です。営業損益がマイナスであることが要件になっています。つまりこの特例の対象は、まだ黒字になっていない、より初期の企業です。
制度が初期の企業ほど優遇を厚くしているのは、その段階の資金が集まりにくいからです。投資家から見れば、優遇が厚い企業ほどリスクが高いという対応関係があります。税の有利さだけで選ぶと、いちばんリスクの高い企業に集中することになります。
04株式投資型クラウドファンディングで使えるのか
使えます。当サイトが集めた株式投資型の募集839件のうち、エンジェル税制の区分が表示されていたものを数えます。
| 区分 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 適用なし | 427件 | 50.9% |
| B | 256件 | 30.5% |
| A | 149件 | 17.8% |
| 不明 | 7件 | 0.8% |
募集ページには「A」「B」「適用なし」といった形で表示されていることが多く、プレシード・シード特例が別途表示される場合もあります。表示は募集の時点のもので、確定は都道府県の確認を経てからです。
| 確かめること | どこで | いつ |
|---|---|---|
| 対象かどうかの表示 | 募集ページ | 投資する前 |
| どの区分か | 同上 | 同上 |
| 確認書の交付時期 | プラットフォームへの問い合わせ | 投資する前 |
| 実際の書類 | 発行会社から交付される | 年明け |
| 申告の期限に間に合うか | 同上 | 年明け |
3行目と5行目が実務でいちばん問題になります。書類が確定申告の期限に間に合わないことがあります。発行会社が都道府県の確認を取る手続きに時間がかかるためです。間に合わない場合は、期限後に更正の請求をするか、翌年に申告することになります。投資する前に、プラットフォームに確認してください。
053つの優遇を、選ぶ順番
対象企業がどの区分にも当てはまる場合、選ぶ順番を整理します。
- その年に株式の譲渡益があるか。なければ、優遇措置Aしか使えません。
- 譲渡益があり、対象がプレシード・シード特例に当てはまるか。当てはまるなら、これがいちばん有利です。非課税だからです。
- 当てはまらない場合、AとBを比べる。課税所得が695万円を超えるならA、それ以下ならBのほうが大きくなります。
- 控除の上限を確認する。Aには総所得金額×40%と1,000万円の上限があります。投資額が大きい場合は、Bのほうが多く控除できることがあります。
- 複数の会社に投資しているなら、会社ごとに選ぶ。組み合わせられます。
そして最後に、同じことを繰り返し書きます。税の優遇は、投資先を選ぶ理由になりません。優遇で戻るのは投資額の一部で、会社がうまくいかなければ残りは失われます。
プレシード・シード特例の対象は営業損益がマイナスの、設立5年未満の企業です。税制がいちばん手厚いということは、いちばん資金が集まりにくい段階だということでもあります。その意味を理解したうえで使ってください。
06非課税の効果を、投資額と倍率で計算する
プレシード・シード特例は、控除を受けても取得価額が下がりません(年間20億円までの範囲)。売ったときに取り戻されないので、その分だけ手取りが多くなります。
| 投資額\売却倍率 | 0倍 | 0.5倍 | 1倍 | 1.5倍 | 2倍 | 3倍 | 5倍 | 10倍 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 100,000円 | 20,315円 | 20,315円 | 20,315円 | 20,315円 | 20,315円 | 20,315円 | 20,315円 | 20,315円 |
| 200,000円 | 40,630円 | 40,630円 | 40,630円 | 40,630円 | 40,630円 | 40,630円 | 40,630円 | 40,630円 |
| 300,000円 | 60,945円 | 60,945円 | 60,945円 | 60,945円 | 60,945円 | 60,945円 | 60,945円 | 60,945円 |
| 500,000円 | 101,575円 | 101,575円 | 101,575円 | 101,575円 | 101,575円 | 101,575円 | 101,575円 | 101,575円 |
| 1,000,000円 | 203,150円 | 203,150円 | 203,150円 | 203,150円 | 203,150円 | 203,150円 | 203,150円 | 203,150円 |
| 2,000,000円 | 406,300円 | 406,300円 | 406,300円 | 406,300円 | 406,300円 | 406,300円 | 406,300円 | 406,300円 |
表の値は優遇措置Bと比べたときの差です。売却の倍率にかかわらず、控除額×20.315%だけプレシード・シード特例が有利になります(売却益が出た場合)。
| 投資額 | Bで売却益が出たときに取り戻される額 | プレシード・シード特例では | 差 |
|---|---|---|---|
| 100,000円 | 20,315円 | 0円 | 20,315円 |
| 200,000円 | 40,630円 | 0円 | 40,630円 |
| 300,000円 | 60,945円 | 0円 | 60,945円 |
| 500,000円 | 101,575円 | 0円 | 101,575円 |
| 1,000,000円 | 203,150円 | 0円 | 203,150円 |
07設立からの年数で、対象かどうかの見当をつける
プレシード・シード特例の対象は設立5年未満です。募集ページに設立年が出ているので、そこから見当をつけられます。ただし設立年だけでは決まりません。営業損益や外部出資の要件もあります。
| 設立からの年数 | 優遇措置A | 優遇措置B | プレシード・シード特例 |
|---|---|---|---|
| 0年 | 対象になりうる | 対象になりうる | 対象になりうる |
| 1年 | 対象になりうる | 対象になりうる | 対象になりうる |
| 2年 | 対象になりうる | 対象になりうる | 対象になりうる |
| 3年 | 対象になりうる | 対象になりうる | 対象になりうる |
| 4年 | 対象になりうる | 対象になりうる | 対象になりうる |
| 5年 | 対象外 | 対象になりうる | 対象外 |
| 6年 | 対象外 | 対象になりうる | 対象外 |
| 8年 | 対象外 | 対象になりうる | 対象外 |
| 10年 | 対象外 | 対象外 | 対象外 |
| 12年 | 対象外 | 対象外 | 対象外 |
株式投資型で調達する企業は、設立から数年以内が中心です。企業ごとの設立年はシード期とアーリー期で何が変わるかにまとめました。
08非課税枠と、他の特例の関係
プレシード・シード特例には年間20億円という非課税の枠があります。個人投資家でこの枠を使い切る人はまずいませんが、制度の形として知っておく価値があります。
| 枠 | 金額 | 超えた場合 |
|---|---|---|
| 非課税の枠 | 年間20億円 | 超えた部分は従来どおり取得価額を調整 |
| 優遇措置Aの控除の上限 | 総所得金額×40%と1,000万円のいずれか低いほう | 控除できない |
| 優遇措置Bの控除の上限 | その年の株式等の譲渡益の範囲 | 同上 |
| 株式投資型の投資の上限 | 1社あたり年間50万円 | 投資できない(金商法の規制) |
4行目が実務的な制約です。株式投資型クラウドファンディングで投資できるのは1社あたり年間50万円までなので、非課税の枠を使い切ることはありません。10社に50万円ずつ出しても500万円です。
20億円という枠は、エンジェル投資家が直接投資する場合を想定したものです。クラウドファンディングの投資家にとっては、実質的に「上限なし」と考えて差し支えありません。
09要件を満たすかどうかの確かめ方
投資家の側で要件を判定することはできません。発行会社が都道府県の確認を取る仕組みだからです。それでも、確かめる手順はあります。
- 募集ページの表示を見る。「プレシード・シード特例」と明記されていれば対象です。「優遇措置A」「優遇措置B」としか書かれていなければ、そちらです。
- 設立年を見る。5年以上前に設立されていれば、この特例の対象にはなりません。
- 業績の記載を見る。営業損益がマイナスであることが要件なので、黒字の会社は対象外です。
- プラットフォームに問い合わせる。「この募集はプレシード・シード特例の対象ですか」と直接聞くのがいちばん確実です。
- 確認書の交付時期を聞く。確定申告に間に合うかどうか。
3行目が、この特例の性格をよく表しています。黒字の会社は対象外です。税制がいちばん手厚いのは、まだ利益が出ていない、最も初期の企業だということです。
10この特例を、投資判断にどう使うか
結論を先に書きます。使わないでください。税の優遇は、投資先を選ぶ理由になりません。
| 考え方 | 正しいか | 理由 |
|---|---|---|
| 非課税だから、この会社に出す | 誤り | 非課税になるのは税の部分だけ。元本が失われれば意味がない |
| 投資すると決めたあとで、特例が使えるか確かめる | 正しい | 順序として正しい |
| 特例の対象企業は、より初期でリスクが高いと理解する | 正しい | 営業損益がマイナスであることが要件 |
| 特例が使える分、出す金額を増やす | 危険 | 実質の負担が下がるのは事実だが、失う可能性も同じだけある |
| 特例が使えない会社を避ける | 誤り | 特例の対象外=黒字が出ている、という場合もある |
5行目が見落とされがちです。特例の対象でないことは、その会社が悪いことを意味しません。設立から5年以上経っている、営業損益が黒字になっている、といった理由で対象外になることがあります。それらはむしろ、事業が進んでいる証拠です。
税制の手厚さと、投資先としての良し悪しは、むしろ逆の方向を向いていると考えてください。制度は資金が集まりにくいところを助けるために作られています。
11よくある質問
分配金は確定申告が必要ですか。
給与所得者で、給与以外の所得の合計が年間20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です。ただし住民税の申告は別に必要になることがあります。
20.42%が引かれていました。これは何ですか。
所得税の源泉徴収です(所得税20%+復興特別所得税0.42%)。前払いなので、所得が低ければ確定申告で戻ることがあります。
損が出たら他の所得と相殺できますか。
雑所得の場合、他の所得とは相殺できません。同じ年の他の雑所得とだけ相殺できます。
損失を翌年に繰り越せますか。
雑所得の損失は繰り越せません。その年で切り捨てになります。
住民税はどうなりますか。
分配金にも住民税がかかります。税率は一律10%です。源泉徴収されているのは所得税だけで、住民税は別です。
12この記事の数字は、どこから取ったか
会社名を挙げて処分や事故を書くにあたっては、照合を法人番号の完全一致に限りました。社名の部分一致で突き合わせると、似た社名の別会社の記録を拾ってしまいます。当サイトが実際に試したところ、82件が一致したように見えてそのほとんどが別会社でした。
できていないことも書きます。不動産特定共同事業者への監督処分は国土交通省・都道府県の所管で、この事例集には含まれていません。また償還後の実績は、事業型を除いてどの事業者も公表していないため、不動産型・融資型については「戻らなかった件数」を外から数えられません。
数字はいずれも元本を保証するものではなく、この記事は特定の商品の勧誘ではありません。

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